熱疲労

 熱疲労

物体が温度の変化を繰返し数多く受けると,物体を構成する材料内には巨視的または微視的な熱ひずみと熱応力が発生してそれが繰返される結果,それに伴う弾塑性変形の繰返しによって,材料は通常の繰返し荷重による疲れの現象に類似した損傷を生ずる.かつ材料は熱サイクルを受けている間に,結晶粒の成長,時効,酸化腐食など材質自身の治金学的変化をも生じて次第に劣化し,ついにき裂を生じて破壊するに至る.これが熱疲労(Thermal fatigue)と呼ばれる現象である.

熱疲労の発生原理

高温で使用される各種構造物,たとえばジェットエンジン内燃機関,熱間圧延ロール,原子炉などにおいては,その活動休止または運転中に,温度の急激な変化を受けることが多い.このような温度変動を受けて生ずる熱膨張あるいは収縮が何らかの原因で拘束されると,材料内部には妨げられた変形に対応する熱応力が発生し,これが繰返されることによって材料は熱疲労損傷を受ける.

低サイクル疲労

初めに熱疲労は,低サイクル疲労の一種と分類される.

低サイクル疲労は寿命がおよそ10^5サイクル以下の疲労を指し,一般に「疲労」と表現する高サイクル疲労とは区別される.低サイクルではひずみ範囲が大きいため,最大ひずみが塑性域に達する場合が多い.このような場合,応力よりもひずみの大きさに寿命が左右されるひずみ依存型の破壊を示すので,ひずみ制御型の試験方式を採用する必要がある.低サイクル疲労は,等温低サイクル疲労熱疲労に大別される.等温低サイクル疲労は,一定温度下でひずみだけが周期的に変化する現象であるのに対して,熱疲労は温度も周期的に変化する現象である.さらに熱疲労は温度とひずみの位相関係によってout-of-phaseとin-phaseに分類される.

out-of-phase熱疲労

発熱体に近接して温度変化を最も受けやすい部材が他の部材によって熱膨張および収縮を妨げられ,熱ひずみの繰返しを受けてき裂を発生し破損する場合が最も一般的な熱疲労であろう.この場合に,注目している箇所に発生するひずみは高温で圧縮,低温で引張りであって,図1上段(a)に示すように温度波形と逆位相のひずみ波形である.

in-phase熱疲労

例えば,オーステナイト鋼に溶接されたフェライト鋼,あるいは両端を拘束されたU字管の外周には,温度変化に伴って高温側で引張ひずみを生ずる.図1に示すように温度波形とひずみ波形とが同位相にある.

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図1 実機部材および試験片に生ずるひずみ・温度波形

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1963/25/270/25_270_218/_pdf

参考文献